2001年韓国月例レポート

月例レポート

  これから、月例レポートを連載する予定です。ちょっとかたい内容なので気の向いた方はお立ちより
ください。

2001/5 始華湖について
2001/6 
南北首脳会談から1年
2001/7 なぜ地方自治団体も教科書問題なのか
2001/8 韓国の造船業
2001/11 韓国のコンテンツ産業
2001/12 2001年世界10大経済ニュース

 

始華湖について(2001/5)

<はじめに>

 韓国の夏を告げる「パッピンス」の看板をあちこちで見かけるようになった。このパッピンスは、「パッ」は、あずき、「ピンス」は、氷水を意味する。日本で言うかき氷だと考えてもらえばいい。暑い夏ももうそこまで来ている。韓国には日本のような蒸し暑い梅雨はない。さわやな気候であるが、逆に今韓国は、水不足が深刻である。降水量は、平年の1/3水準であり、地域によっては給水制限が始まっていると言う。

 韓国最大の観光展示会コトファが、5月31日から6月3日まで開催された。九州ブロックとして出展。私もブースに貼りついたが、客が少ないというのが第一印象。昨年よりも来客者が減っている感じがした。インターネットが発達している韓国にとって必要な情報は、ホームページ。お金と時間を使って展示会を見学する必要性は減ってきたのかなと実感した。直接旅行社のホームページへアクセスして、ホテルの予約をすると電話での予約より安くなったりするのだから余計、パソコンへ移行してしまうのだろう。

 展示会の前日に始華湖を視察する機会があったので今回はこの報告をしたい。

<始華湖とは>

 韓国の西海岸は、世界5大干潟として有名である。特に日本では、「韓国版モーセの奇跡」とか、天道よしみの歌でも知られる「珍島」も西海岸に位置する。ソウルから来るまで約1時間の所に位置するこの湖は、長さ12.6kmに及ぶ防潮堤を築き干拓を行い。工場用地、農地、そこに供給する水を確保するため淡水化湖を作るという計画であった。

 1987年4月に始華防潮堤建設事業に着手し、1994年1月に工事竣工。人工的に作られたこの湖は、安山市、始興市、華城市の3市に囲まれているため、それぞれ一文字をとって名付けられたものである。

<淡水化を放棄>

 ところが94年ごろから水質の悪化が始まった。大量の貝が死んでいった。対策本部を設置する等改善策を出してきたが、どれも功を奏しなかった。安山市を始めとする湖と隣接する市は、土地の価格が下がる、塩害が出る等市のイメージが全国的に悪くなった事を受けこれまで反対運動を行っていなかった住民も堤防を開放することを要求し始めた。97年からは、水門を1日2回開け、海水を入れ始めたところ生態系に変化が見られた。今年の2月には、始華湖淡水化事業については放棄することとなった。

 ただ今でも水質が急激に悪化した事は不明である。工場廃水や、生活雑排水の話も出たが、はっきりした理由はわからないままである。

<安山市の取り組み>

 周辺の3市の中でも安山市は最も積極的な取り組みをしている。環境保護課の中に環境保護市民運動家を1名嘱託として配置している。韓国の中でもこのような形態を取っているのはこの安山市だけだという。国の方針に対してもちろん市民運動の盛り上がりがあったにせよ市が、反対を唱え事業が中止になったのだから。現在、国に対してこれから始華湖の活用方案について提案をしている。具体的には、観光団地、干潟教育として活用する等である。年内には、回答がある予定である。

 その他としては、ソウルから車で1時間の距離にある。2000万人口に隣接していることから、憩いの場、観光都市として開発を進めたいと。また、この地の利を生かして、中国日本からの観光客も呼び込みたいと考えている。そのひとつとして航空テーマパークも浮上してきている。そう言えば、昨年、8月一時帰国をしたときに、安山市長が福岡にシティーセールスに来ており、その時に会って話をしたことがあった。その時の話しでは、小型(20人以下)の飛行機を安山市と日本の地方都市に飛ばそうという話しをされてあるのを思い出した。また、潮の干満を利用した発電を考えている。これには、外資が不可欠である。

<市民団体は>

 市民団体の代表として活躍する安山市環境保護課の崔さんはもともとサラリーマンだったが、海が好きでこの地、安山市にやってきた。工事が始まると反対運動を始めた。反対すべき事は反対し、必要なことは提案している。何もかも反対と言う立場ではない。現在は、市民団体と行政とのパイプ役という立場をしている。ゴミの不法投棄、密漁などもあるため夜、見まわりをするが当初は、結構怖い目にもあったし、嫌がらせの電話も多かった。現在は、警察から保護をしてもらっているのでそう怖い思いをすることはなくなったし、韓国のマスコミを始め日本でも紹介してもらっている。 市民団体は、パトロールをしている。もちろんボランティアだが、車は、市が用意している。安山市では、20名が、交代で湖を見守り、他の市にもそれぞれ同じようなグループがあるという。工場から不法投棄はないか。煙突の煙の色、匂いをチェックするという。この日もたまたま湖の近くで、市民パトロールとすれ違った。市民団体は、自然生態展示館を建てた。これは、始華湖を通して得た教訓を子供達や、他の人に知らしめるためのものである。

<漁民代表は>

 今回は漁民代表の方からも話を聞くことができた。安山市には、大きな工業団地もあり、漁師ができないのならそこで働けばと言う話も出たが、我々は、海と共に生きているのであり、そう簡単に辞めるわけにはいかない。始華湖での漁業保証は1986年に1世帯当り600万ウオン(約60万円)受け取った。この金額は、漁師が6ヶ月もあればすぐに稼げる金額でしかない。その当時、国からの申し出を断ることはできなかった。現在も始華湖での漁はできない。私達の願いは、早く始華湖がなくなる事だ。

 開発をするのは、国だが、住民が反対すればすぐに止めるべきだと強調した。

<終わりに>

 始華湖の教訓を生かし、これからは(現在着工は除く)は、西海岸の干潟の開発はしないという。ただ、食料自給率の低い韓国としては、農地拡大というのは、大きな課題ではある。環境保護、それと開発は、相反するものであるが、国益を考えた場合、共に進めていかなければならない問題でもある。 安山市の秘書室長は、自然破壊と言われればそれで終わりだが、この教訓を生かして、町作りをしていきたいと語ったのが印象的であった。

 干潟といえば、アジアのハブを目指す仁川国際空港も干拓によってできた海上空港だということを忘れてはならないだろう。

南北首脳会談から1年(2001/6)

<はじめに>

 6月12日、韓国慶尚道昌原市で、第8回の九州(日本)・韓国経済交流会議が開催された。私は、この会議へは、立ち上げの第1回(北九州市で開催)から係わっている。北九州市のKAITAを中心とした人材(技術者)派遣をはじめ、日韓IT光コリドー・プロジェクト(福岡・釜山間に海底光ファイバーケーブルを通すというもの2002年ワールドカップ前までに実施)も九州電力、日本テレコム、NTTcom、韓国通信など民間レベルでの動きも出ている。そう考えると行政としてこの会議そのものの役割も終わりかなと感じた。九州経済産業局長と食事をする機会が合ったが、そのときの話で、九州から逆に本省へ、提案できる体制になったという話があった。そうであれば、行政としては、これからは、企業の皆さんの抱える貿易、技術移転等に係る隘路事項解決のため動くのかなとも思った。

 経済といってもビザ問題等も当然、韓国ビジネスマンにとっては大きな問題である。そこまで提案できるといいのだが。6月といえば、昨年6月15日に日韓首脳会議が行われた。歴史的な日から、1年たつわけだが、南北関係はどのように変わったのかを考察したい。

<国民意識は>

 その当時、私は職場で、テレビを見ていたのだが、とても感動的だったのを今でも忘れない。南北首脳が握手をした瞬間、職場の韓国人はいっせいに拍手をした。その後、韓国内では北朝鮮ブームが起こった。金剛山観光事業、現代の会長が、板門店から、牛を送ったり、大学では、北朝鮮学科が人気を集める等。この日に先立ち韓国放送が、国民を対象にアンケート調査を実施したところ、この1年で、「南北関係が進展した」と「南北関係は変化ない」が、それぞれ同じ比率であった。進展していない理由としては、北朝鮮当局の消極的な態度を挙げた。

 また、朝鮮日報とリサーチ会社の韓国ギャラップが行ったアンケート調査によると金まさにチ総初期のソウル訪問に関して、「年内に実現する」が25パーセント、「来年」が、9.7パーセントとなった。「いつになるかわからない」は、18.3パーセント、「実現しない」との消極的な回答も8.6パーセントにも達した。金正日総書記に対するイメージでは、この1年間で「良くなった」35.9パーセント、逆に「悪くなった」が、9.9パーセントを大幅に上回った。しかし、最も多かったのは「変わらない」の44.6パーセントだった。

 南北会談当時のイメールとはかなり変わってきているといえる。

<会談を見ると>

 会談の内容は、共同宣言という形で発表された。@南北の統一的問題は、自主的に解決する。A統一は韓国の連合制方式と北朝鮮の連邦制方式が共通すると認識し、この方向で統一を推進する。B両国は8月15日に離散家族の相互訪問団を交換し、問題の解決に尽力する。C経済協力を通じた均衡的な発展を図り、社会などの交流を促進する。D当局者間対話の早期開催の5項目である。共同宣言そのもので目新しいものはなかった。@については、アメリカ等の関与を認めないという趣旨であり、Aについては、従前からある話である。Bについてもこれまで行ってきたことがある。Cについては、韓国側が北朝鮮にこれまで以上に援助を続けるというものである。Dについても特段新しいことはなかった。

 ただし、トップが会談することにより、50年間にわたる堆積物を最高統治者レベルで一気に崩そうとした試みと受け取ることができる。「先供後得(先に与えて後で得をとる)」を基調とした決断と見ることができる。それが北朝鮮に対して必要な支援を行い、そのような信頼を積んで行く過程で北朝鮮の態度の変化を誘導するという太陽政策であるわけである。それから1年が経った今、何か大きく変わったようで、実はあまり変わっていないというのが現実だ。

<具体的には>

 今年の2月には、北朝鮮の金正日総書記の訪韓について「急がず準備に万全を期すことが望ましい」としていたのに、5月末には、「昨年6月の南北首脳会談から1周年を契機に北朝鮮が金正日総書記のソウル訪問に関する確実なスケジュールを明らかにすることを心から希望する」とコメントし、それに対する回答がなかったため、6月6日には「北朝鮮の金総書記のソウル訪問が、必ず履行されると信じている」と述べている。金大中大統領が、南北会談から1年経つ節目を気にしているとも見ることができる。

民間の交流事業である、北朝鮮金剛山観光事業を現代が行っているが、資金面で行き詰まっている。北朝鮮との交流の象徴でもあり、政府与党としては、公的資金をつぎ込みたいとしているが、野党からの反対は必至である。南北交流を象徴する、北と南を結ぶ京義線も北側が工事を中断しており開通のめども立っていない。

<野党等からの批判>

 こうした中、野党ハンナラ党は、6月14日に昨年6月15日に行われた南北首脳会談から1年の論評を発表し、「南北共同宣言は現実的な計画を伴わないまま、「空洞宣言」に転落する危機にある歳、今からでも冷静にこの1年を反省すべきだとしたうえで、今後の対北朝鮮政策に関しては、野党も太陽政策を支持し、柔軟な相互主義、透明性、検証の行動原則が守られるのならすべての面で協力をするとも付け加えている。

 また、朝鮮日報も社説の中で南北会談から1年経つが目だって変わっていないことを主張し、あえて変わったとすれば、韓国の安保理念と安保認識が「決して北朝鮮を刺激してはならない」という現政権の優先的な政治的配慮のなってしまったということだ。と批判をしている。これは、6月14日北朝鮮の商船が越境してきたことに対し、何ら処置をとらなかったことに対する批判でもある。

<終わりに>

 この1年を考えてみると、北朝鮮は、韓国等から太陽政策により、多くの物資を手にした。金剛山観光で、外貨を得ることができた。世界から孤立することなく、多くの国と国交を回復している。

韓国にとって得られたものはなんだろう。離散家族の再会ぐらいだろうか。

こうして考えてみると韓国にとっていい事はあまりなく、北朝鮮のメリットのほうが目に付く、そもそも、歴史的な会談であろうとも、北朝鮮の体質が変わったわけではなかった。トップ会談は、確かに一歩であることには間違いない。国民の中にも北朝鮮が変わったわけでもないのに、なぜ支援を続けるのかと言う声も大きかったのは事実。

今後は、もともと北朝鮮を敵対的封じ込即め戦略で変化させることはできないだろうし、韓国側の一方的な片思いでも変化させることはできない。今後の基調を原則主義と互恵主義に置き対話を続けるべきだと思う。

なぜ、地方自治体まで教科書問題なのか(2001/7)

<はじめに>

 先日(7月24日)、家族が夏休みにあわせて一時帰国をした。私も荷物運びで国際線の仁川国際空港に同行したのだが、そこには、「日本は歪曲教科書を正せ」、「(韓国人)は日本製品を買うのを辞めよう」と書かれた張り紙があった。その下の床には、日の丸が敷かれ、その上にははさみが置かれていた。自由にお切りくださいといわんばかりに。

 ただ、これは、入国する所ではなく、出国する所の前だというのが面白いと思った。外国からの客の中で一番多いのは日本人観光客なのだが、その日本人観光客が激減すれば困るのは、それで生計を立てている韓国の人だからだ。でも主張はしなくてはという事で、韓国に入ってくる人にではなく、出ていく人に教科書問題をアピールしているように見えるからだ。

 このように今、ギクシャクしているのは、教科書問題である。おかげで、いろいろな交流関係の仕事もキャンセルされている。福岡県と韓国との交流をみると、一番代表されるのは、韓国南岸との交流事業である。そこの知事から福岡県知事に抗議(遺憾)の文書が送られてきた。今回はその事について考えてみたいと思う。韓国との経済交流を進めるときの一つの方向性を探る事ができると思う。

<教科書問題の背景>

 実は、教科書問題は昨日今日に始まったものではない。昔からあった。1982年に教科書問題でジェトロとコトラの定期協議が無くなった事があった。今回、韓国からの修正を促され、検討した結果、誤りを直し、そのほかについては、間違いとは言えないという事でその旨、韓国政府に回答をしている。それでも再修正を求めたり、交流事業が中止になっているのはなぜかということと、なぜ、そこまで政府が強引に日本へ要求しているのかという事を考えてみるとまず、第一に、金大中大統領の支持率が落ちているという事を上げる事ができる。就任直後の1998年4月には、70.7%を記録していたが、その後1年間は、50〜60%で推移。今年4月の支持率は、26.9%で就任依頼過去最低となった。昨年、北朝鮮との歴史的会談を受け、そのシンボルとしての鉄道建設は、北側の遅れで完成の目処は立っていない。物価上昇率が高いのに反し、アメリカの不景気により、貿易の伸びが悪く経済成長率も低迷している。北に対するアメリカとのずれもあり、アメリカとの関係もいいとは言いがたい。このまま国民の目を内政に目をむけさせるのは得策ではなく、海外へ目を向けさせる必要性があった。実は、これは、今に始まったものではなく、竹島(韓国では独島)問題、従軍慰安婦問題がそれである。そう言った政治的背景に加え、マスコミに対して税務調査を実施している。これは、批判的なマスコミをたたくという要素が強かったと見られている。政府の進める、歴史教科書問題に歩調を合わせざるを得なかったわけである。また、日本に目を向けると7月末に行われた参議院選挙の為に対外的には動きにくい状況であり、小泉首相の靖国神社への参拝は、諸外国、特に中国、韓国にとっては面白くないという事に間違いはない。このような要素が重なった。

<なぜ、地方自治体までもか>

 もともと韓国の国民性というか、全部が全部ではないが、流れに乗るのが好きな民族であるということだ。大統領が一定の流れを作るとその流れに外れることなく上手に乗っていくのを好んでいるように見える。地方自治体についても国の問題を日本の地方自治体に向ける事で流れに乗る事ができると判断したわけである。

 このため韓国の地方自治体は、国に右にならえをし、前述した韓国南岸の道から書簡が出されている。あれだけ、仲良くやろうといっていたのに、これは国の問題じゃないか、と思った事がある。地方を使って国を動かそうというのだろうかとも思った。

 それを見て、考えられるのは、来年は春には、地方自治体の選挙が予想されている。その意味で国と方針を同じにしておく方が選挙を戦っていく上でやりやすいと言う事が考えられる。特に大統領のお膝元である全羅南道長がそのように考えるのは自然である。その意味で、抗議、遺憾の書簡は、形式として受けとめるのが適当だと考える。

 もうひとつ、国と歩調を合わせた理由を考えるとすれば、韓国の地方自治は、まだ、子供であるという事が上げられる。地方自治が始まったのは、ほんの6から7年前からなのである。その時初めて選挙で地方自治の長が選ばれたのだから。それまでは、大統領が任命をしていた。それを思うと国と足並みをそろえておく方が無難だと思うわけである。

 地方自治の先輩である日本は、これに翻弄される事があってはならない。先輩として、許容力を示さなければならないのは言うまでもない。

<福岡県はどうすべきか>

 福岡県知事は、7月16日の記者会見の中で「国と国の関係は困難な時期もあるが、自治体・民間交流はそこから少し離れ、日韓関係の発展の基礎となる努力をする必要がある」と話しをされている。まさにその通りだと思う。

 江戸時代の儒学者である雨森芳洲(1668〜1755)は、外交の基本は、真心だと言っていたが、福岡県としても真心で韓国と付き合う必要があると思う。これからもこれ以上の交流を進めるべきだろう。

 一方、現在交流が、中断されているものを見てみると姉妹校流、文化交流、学校間の交流等である。韓国経済にとって、日本は、必要不可欠な存在であり、韓国側としては、早い段階で解決する必要がある。

 先日、私のところに釜山企業が福岡県と異業種交流をしたいのでカウンターパートを早く捜して欲しいと依頼があった。経済関係者は、早く沈静化を望んでいる事は間違いない。

 ただ、韓国側は、急速に日本に近づくであろうが、日本側は、内部干渉を始め交流事業の一方的な中止宣言等によりしこりが残るのは必至である。また、これまでの関係に早く戻る事を希望して止まない。福岡県としても関係回復に当っては、積極的に動くことが必要である。

 今回の件にしろ日本側と韓国側の本音の話しで日韓の関係の溝を埋めるべきだと思う。その意味で作る会の教科書は日韓関係へ問題提起をしたということができる。独島のときもそうであったが、議論のないままあやふやに終わった。今回もあいまいに終わってしまいそうなのが残念な所である。少なくとも対韓国の地方自治体に対しては、福岡県として本音の話ができるような関係を構築する事が肝要だろう。まず、福岡県から。

韓国の造船業(2001/8)

<はじめに>

 今週、業務一時帰国を終え、ソウルに戻ってきた。1年ぶりの訪福は、浦島太郎状況であり、見るものがすべてが珍しかった。1年でもこんなに変わるものかと実感。

 8月は、歴史教科書、首相の靖国神社訪問等揺れた日韓であった。問題となった創る会の歴史教科書は、限りなく0に近い数であった。また、小泉首相の靖国神社参拝も前倒しで行われた結果、韓国側からの批判はある程度、あったものの大きな混乱も無く、韓国側の主張がとおったという形になった。

 8月15日は、首相の靖国神社参拝、教科書採択ということで多いに注目されたのだが、結果的には、予想通りの流れになってしまった。なんと言うか、韓国にとっては、勝利であっても、日本側にとっては、内政干渉を受けたとか、交流活動にマイナスになるというイメージが残ったのは事実で、今後の日韓交流にとっては、ちょっと暗い影である。

<表現の違い>

 確かに韓国では、大げさな表現が多いというのは事実である。たとえば、日本では美味しいものの表現をするときも「美味しくてほっぺたが落ちそうだ」という表現をするのに対して韓国では、「二人で食べていても一人が死んでも気づかないほど美味しい」という表現をする。寒くて死にそうだ、暑くて死にそうだ、おかしくて死にそうだというぐらいに死ぬという言葉が日常語として定着している。

 日本に対して激しい口調で言ったとしてもそれほど強い意味がなかったり、次には前の事が全く無かったかのようにという事も時にしてある。たとえば、日本教科書歪曲に抗議するため日本製品不買を訴えた張り紙を見たが、韓国製品についても日本から入った素材で作られた製品はかなりの部分を占めており、日本製品を買わなければ、生活はできない事は、明かであるが、強い口調で訴える。

 ただ、日本人はそれになれていないためあたふたする事も多々ある。要は、いかに相手のことを理解するかだという事に尽きると言える。

<明るい話題といえば>

 IT関連は、アメリカ、日本の不景気のため、韓国のみではなく、アジア全体が伸び悩んでいる。特に韓国の場合、IT産業に国を上げて特化しているため深刻である。

 これとは逆に好況なのは造船業である。「建国以来、最大の好況」といわれている。また、今後10年間を独走する体制を整えたという評価も受けている。今回は、この造船業について考えてみる。

<造船業の現在>

 世界第1の造船企業である現代重工業は、今年の受注目標額を昨年の受注実績の51億ドルより18億ドル少ない33億ドルに決めている。これは、決して不況のためではない。むしろ受注がオーバーして余裕物量が無いためである。

 現代重工業関係者は既に受注物量が140隻 1千万GT(総トン)、金額にして75億ドルに達し、2年半分の仕事を確保しているので、無理に受注する必要が無いと話している。その代わりに、高付加価値船舶を中心に選別受注する方針を明らかにした。

 物量面で見れば、韓国造船業は世界トップの座を固めている。1999年日本を追いぬいて新造船の受注高1位となった韓国は、昨年、世界の受注高の45%を占め、日本(29%)との格差をよりいっそう広げた。現代重工業、サムソン重工業、大宇造船等の韓国国内3社が受注高において順に世界1位、2、3位を占めている。

 今後の仕事がどれくらい残っているかを示す受注残高でも日本との格差をよりいっそう広げ、受注・建造・受注残高で韓国の造船が3冠王を占めた。

 ただ、時間当り労働生産性は、日本より遅れている。これも、建造経験を積む事により格差が狭まってはいるが。

<問題点は>

 金額に換算すると韓国造船の様相は変わってくる。韓国は、2000年に物量基準の受注量の40.9%である。120万GTを占めているが、これを金額に換算すれば世界市場の27%(約100億ドル)程度を占めるにとどまる。韓国、日本に押されて競争力を失った西ヨーロッパ造船工業会、会員国の場合、物量面では12%だが、金額面では30%であるのと対照的である。

 理由は、韓国の造船企業が汎用船の生産能力はあるが、価格が高い特殊船・旅客船等の高付加価値船舶を作る技術が不足しているということだ。特に世界船舶受注金額の30%を占める豪華遊覧船市場は、西ヨーロッパの独走といえる。

 問題点は、高付加価値を作る技術が不足しているというだけではなく、設計・製作経験が不足している事、高級資材を供給できる企業等がないという点である。

<韓国造船が改善する点>

 高付加価値船舶の割合を高めていくことが必要となるわけだが、生産行程分野に付いても改善が必要とされている。

 生産分野で韓国は、日本に遅れをとっている。同じ製品を作るのに時間がより多くかかる。主要原材料の鋼材を管理するにも差が見られ、仕上げの悪さは、慢性的である。日本は、40年間、高賃金・労働不足にもかかわらず造船部門で世界のトップに立てたのは日本の品質管理に対する徹底した仕上げ精神があったわけだ。

 品質向上の為に情報技術を活用した3次元コンピューター設計及び統合生産管理、自動化ロボットの拡大等をとおした造船所における持続的なハイテク化が至急であるといえる。

 また、現代、サムソン、大宇、ハンジ、サムホの造船企業は、昨年6月に共同購買の為にe-マーケットプレスの設立を合意したが、現在では、事実上、白紙状態である。最高経営者の専任問題と事業領域をめぐった意見の差を狭められなかったといわれている。

<終わりに>

 韓国が日本を追いぬいて2年たつわけだが、韓国についても中国等からの追い上げを意識していかなければならないということはいうまでもない事だ。量的発展から質的発展に転換する必要がある。そのためには、上記改善点のほかに、造船所と資材供給企業間の情報共有などの統合生産管理の為にウェブ等を利用したネットワーク構築も重要だといえる。

 ちなみに日本では既に、造船会社と船舶機器企業、総合商社が共同出資した「船舶ウェブ」という会社が設立されて活動している。

 現在、景気沈滞、IT産業の不況等明るい話題の少ない韓国であるが、この造船業が、韓国経済を引き上げてくれる事を期待している。

韓国のコンテンツ産業(2001年11月)

<はじめに>
 11月14日から17日まで、第2回目の日韓交流祭が釜山市のコンベンションセンターで開催された。これは、故小渕首相と、金大中大統領との合意の元、日韓共催のワールドカップ成功に向けての日韓をそれぞれ紹介するイベントである。日本側は、今年2月にソウルで第1回の交流祭を開催し、韓国側も東京、大阪で開催している。今回は、コンベンションセンターへ行くには、バスしかないということもあり、動員がかけられた。その結果、幼稚園、小中高の学生が目に付いた。結果的には、目標の3万人を越える3万5千人の来場者を記録した。

 私も福岡県ブースを担当し、準備から片づけまでブースに張り付いた。一人ということもあり、結構大変な面もあったが、それなりに福岡をPRできたことで自己満足もしている。ただ、残念なことは、前述したように、学生が多かった反面、ビジネスマンがほとんどいなかったことである。観光や、福岡県一般の紹介も大事だが、ビジネスの拠点として福岡をPRしたいと思っていたのにそれができなかったことが残念であった。

 今回は、福岡で開催された2001アジアデジタルアート展が開催され、デジタル大賞を韓国の方が受賞されたこともあり、韓国のコンテンツ産業について考えてみたい。

<コンテンツとは>
 
そもそもコンテンツとは、人間の知的・感性的活動の産物であり、多くの人々に流通される無形の資産ということができる。オフライン・コンテンツの場合は、映像・音楽・ゲーム・アニメーション・放送により流通したが、デジタル・コンテンツが脚光を浴びながら文化・芸術、情報、知識コンテンツ等の当たらし分類が試みられている。

<企画力・マーケッティング能力が不足>
 サムソン経済研究所によるとコンテンツ産業の競争力要素を・企画力、・マーケッティング能力に区分している。この研究所は、「韓国国内のコンテンツ産業の生産力は、まあまあだが、問題は、企画力とマーケット能力だ」と語っている。

 放送、映画、ゲーム、アニメーション、音楽の5大コンテンツの産業の中で、市場規模が2番目である映画業界の抱える一番の問題は、企画力不足と言われている.企画力の革新的役割を担っているシナリオ作家の一編あたりの報酬が、非常に少ないと言うことをあげている。報酬が少ないので、アメリカ、日本のように専門シナリオ作家がそれほど多く存在せず、監督がシナリオを直接書く場合が大部分だと言われている。報酬が少ないので、シナリオ作家が養成されない、養成されていないので、作家そのものも少なく、良いシナリオを探すことができないと言う悪循環であるということがいえる。

 また、コンテンツ産業従事者の経験不足も指摘されている。韓国の文化観光部によれば、昨年末を基準にして5大コンテンツ産業に従事をする人材の5割が3年未満の経験者だ。
 加えて、マーケッティング能力も落ちる。映画の場合、外国の映画館業者などとネットワークを持っているマーケティング専門担当者が20人ほどであり、不足状況であるし、それを養成する教育機関もないと言う状況である。

<オンラインデジタル化がまだ>
 デジタル化にすると言うことは、既存コンテンツの付加価値を2〜3倍に引き上げると言うことを意味する。ひとつのコンテンツを多様な媒体を通じて使えるようになるためである。

 韓国では、国内5大コンテンツ産業の場合、全体売上額の中で、デジタルコンテンツ分野の売上は10%(4100億w)にも満たない。デジタルコンテンツ供給業者の平均売上額も3億w程度であり零細である。

<産業別状況>
 韓国の産業別状況を見てみると5大コンテンツ産業のうち売上高トップは、放送であり、35499億wであり、以下、映画、ゲーム、アニメ、レコードの順番になる。収益性の面を見ると、アニメとゲームが順位を入れ替えている状況である。

<コンテンツ産業の競争力の評価>
 
韓国の場合、前述のとおり、人材が不足している。人材を養成、教育する機関がほとんどないので、それは、深刻であると言える。特に、企画、マーケッティング、海外流通部門の人材の専門性は脆弱である。

 開発、生産、マーケッティングを見た場合、開発部分では、創意的なアイディア開発の底辺が弱いと言うことが言えるし、人材不足から、海外マーケッティングでの弱化で輸出入の逆流が続いていると言える。製作と制度、国際市場、投資の面で見ると、コンテンツの著作保護に関連する法律の未整理、デジタルコンテンツ部門では、やや混乱を招いていると言う問題点はあるものの、コンテンツ商品交流の増大また、映画ファンドなど投資支援ブームが起こっていると言うのも事実である。韓国産ゲームであれば、「クイズ、クイズ」があるし、韓国産アニメでは、「ベビー恐竜ドゥリ」がある。歌では、日韓だけではなく、東アジアを活躍する歌手も登場し、私が何よりも嬉しいのは、94、5年ごろから活躍をしていた、金コンモの存在である。今年、久しぶりにCDを発売している。

<最後に>
 このように見てみると、韓国のコンテンツ産業には、多くの課題が残されていることがわかる。全羅南道にある道庁所在地、光州市では、地域活性化のため、このコンテンツ産業に目を向け、工業団地を造成予定である。

 福岡県に基盤を置くデジタルハリウッド福岡校(本社:東京)は、コンテンツ産業の人材育成の学校を昨年、ソウルの延世大学の中に創設した。これまで優秀なCG技術者を養成しており、卒業者をソウルと福岡の掛け橋に考えていると言う。

 当福岡県においてもいち早く、このコンテンツ産業に目を向け、MAFを作ったり、ギガネットハイウェイへの取り組みを行っているところである。

 その意味で、韓国の苦手とする部分と日本(福岡)が得意にする分野を結びつけ、ビジネスパートナーとして、一緒にやっていければ一番理想的だと思う。その取り組みのいったんとして2001アジアデジタルアート展は、いい取り組みだったと思う。

2001年世界10大経済ニュース(2001年12月)

<はじめに>

ソウルの夜景は、とてもきれいである。 もう葉が一枚も残っていないイチョウの木などにライトで飾り付けを行う。 早いところは、12月初めから、遅いところもクリスマスぐらいから、行う。 そのイルミネーションを見ると、ああ、もう12月何だな、なんて思う。このイルミネーションが過去、消えたことがあった。 97年のIMF体制まっただなかの時だ。この鮮やかな、イルミネーションを見るたびに韓国の元気よさを感じる。 

今年も残すところあと3日。 昨年もいろいろなことがあったが、昨年に負けないほど今年もいろいろなことがあったと思う。 新聞や、雑誌で10大ニュースを報道し始めている。  今回は、韓国から見た2001年世界10大経済ニュースというテーマでこの1年間を振り返ってみたい。

<第1位>

 なんと言っても9月11日、アメリカ貿易センタービルのテロ事件であろう。 このテロで、世界経済が大きく揺れた。 韓国では、一日だけで12.02%も下落し、56年間、証券取引所が開かれて以来、最大幅の下落を記録している。 

 ヨーロッパはもちろん、アジア株価も大幅に下落した。 油価、金などが一時期急騰した。

 この余波は、世界経済にさまざまな影響を与えたが、わずか、2、3ヶ月には、世界各国株価はテロ事件以前にまで回復をしている。

<第2位>

 現代グループの鄭周永・前名誉会長が3月21日夜に亡くなった。現代グループのドンというより、韓国のドンといった感がある。 体一つで興した会社を韓国トップの財閥に育て上げた鄭・前名誉会長は、88年のソウルオリンピック誘致や南北関係の改善にも一役買うなど、グループ経営以外にも精力的に活動した。 まさに、現在の韓国の創始者といっても過言ではないだろう。 皮肉にも韓国政府は、この財閥を解体し、これまでのひずみを取り除く作業を進行中である。
 その鄭・前名誉会長も、後継者をめぐる息子たちのいがみ合いや、グループの経営難に悩まされていたはずだが、往年のカリスマ性を失わなかったのは、常に前向きだったからだと言えよう。

<第3位>

 韓国経済も世界から信用回復をはじめた。 韓国信用等級が、世界三大信用評価機関のひとつである、アメリカのムディスが11月30日に等級見通しを従前の「安定的(STABLE)」から「肯定的(ポジティブ)」とした。年初めのIMF卒業に続き韓国信用等級が上向きになり、韓国の信任度が大きく向上したと言える。

<第4位>

金融界にも変化があった。 国民銀行と住宅銀行の統合し、合弁銀行である「国民銀行」が、11月1日に公式に出帆した。 4月23日合弁契約書を締結してから6ヶ月ぶりである。総資産185兆w国内では最大。 世界でも60位にあたる。

<第5位>

世界半導体業界構造調整、128メガDラムが、一時期、1ドル以下に価格が落ち込む等半導体業界が構造調整の余波に包まれた。 Dラム業界では、2、3位である、アメリカのマイクロテクノロジーと杯ニックス半導体が提携を前にしており、日本の東芝もメモリー部分の合弁について具体化しつつある。

韓国においてもサムスン電子が、「デジタルe−カンパニー・グローバル戦略」と題する報告書をまとめた。来年から地域別での事業戦略を本格的に実施する計画だ。 同報告書は、@中国事業を第2の安定収入源として育成 AEUにリスク回避のため金融センターを設立B米国をデジタル中心地にする C東南アジアは生産基地など4つの柱からなっている。

<第6位>

 中国WTOへ加入。「成長する龍」中国が11月10日、世界貿易機構(WTO)会員国として加入した。中国は農産物輸出補助金の廃止等WTO会員国としての義務と責任を負う反面、発言権と世界経済に大きく影響を行使できるようになった。 韓国にとって中国はますます脅威となるのは間違いなさそうだ。

<第7位>

アメリカのゼネラルモータース(GM)が、大宇自動車を12億ドルで引き受ける覚書を9月21日に締結した。 大宇自は昨年11月に事実上倒産し、企業部門の構造改革を急いでいた政府の経済政策の懸案となっていた。 政府と債権団は、国内経済に与える影響が大きいと判断し、大規模なリストラを条件に債権団が新規支援に乗り出す一方、海外売却を進める方針を決定。しかし、リストラに反対する労組がストライキを断行し、今年2月にはスト鎮圧のため警官隊が投入されるなど、労使問題が売却交渉を遅らせる原因となっていた。

<第8位>

 アジアの3竜マイナス成長、アジアの4匹竜の中で韓国を除く3竜がすべてマイナス成長を記録した。 シンガポールと台湾は、第3四半期マイナス5.6%とマイナス4.2%のGDP成長で史上最悪の指標をあらわし、昨年、10.5%の成長でアジア最高を記録した香港も第3四半期は、マイナス成長であった。

<第9位>

 年末株価が、活況である。12月7日、総合株価指数が昨年8月30日以後最高値である、704.50を記録した。 景気回復期待感から、外国人たちの買い勢が、牽引役となった。

<第10位>

 金利が史上最低を記録。債権金利が、一時期、4.5%台以下に落ちる等史上最低であった。 9月28日3年満期 国庫債の収益率、4.39%、3年満期AA-等級会社債の収益率5.91%で、若干、増の傾向がある。

<終わりに>

 ここ1年間の韓国経済を見るときに、景気回復の速さをまのあたりに感じる。 日本は、長い間、経済が低迷しているのとは、対照的である。 政府の思い切った政策ももちろんあるのだが、韓国の国民性も大きな比重を占めているのではないだろうか。 やるときはやるよ。これまで漢江の奇跡と言われた急成長時期をはじめ、IMF体制に移行してからどん底から這い上がってきた、国民の自信のようなものを感じた。